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東京地方裁判所 平成7年(特わ)362号 判決 1995年6月26日

国籍

韓国

住居

東京都台東区池之端三丁目一番三〇号

貸金業

大山護こと姜護

一九四三年一月一六日生

右の者に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康、弁護人福田照幸各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都台東区東上野一丁目一七番三号荒井ビル二階において、「日本不動産ローン」の名称で貸金業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、貸金利息収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際総所得金額が七三一三万三三四一円(別紙1の(1)の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月七日、同都同区東上野五丁目五番一五号所轄下谷税務署(同年七月一〇日名称の変更により東京上野税務署)において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が九一四万七〇〇〇円で、これに対する所得税額が八七万〇八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成七年押第六二八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三一一九万五〇〇〇円と右申告税額との差額三〇三二万四二〇〇円(別紙2の(1)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が一億〇六一一万五五二六円(別紙1の(2)の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、前記東京上野税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が九二八万四〇〇〇円、分離課税による短期譲渡所得金額が二〇八四万円で、これに対する所得税額が九三五万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四七七二万一〇〇〇円と右申告税額との差額三八三六万一七〇〇円(別紙2の(2)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が七二七六万〇五四〇円(別紙1の(3)の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年二月二二日、前記東京上野税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が九九八万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が一一二万八九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三一四四万三五〇〇円と右申告税額との差額三〇三一万四六〇〇円(別紙2の(3)のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  石川健、池田義典こと金義典及び大山京子こと金京姫の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の平成七年二月一二日付け捜査報告書

一  大蔵事務官作成の貸金利息収入調査書、雑収入調査書、支払分配金調査書、支払手数料調査書、租税公課調査書(但し、事業所得についてのもの)、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、事務費調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、支払保険料調査書、諸会費調査書、賃貸料調査書、減価償却費調査書(但し、事業所得についてのもの)、繰延資産償却費調査書及び申告事業所得調査書

判示第一、第二の事実について

一  大蔵事務官作成の申告雑所得調査書

判示第一の事実について

一  検察事務官作成の平成七年二月一九日付け(但し、貸金利息収入についてのもの)及び同年六月二日付け(但し、事務費についてのもの)各捜査報告書

一  大蔵事務官作成の受取分配金調査書及び支払和解金調査書

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成七年押第六二八号の1)及び収支内訳書一袋(同押号の2)

判示第二、第三の事実について

一  検察事務官作成の平成七年六月二日付け捜査報告書(但し、貸金利息収入についてのもの)

判示第二の事実について

一  検察事務官作成の平成七年二月一九日付け捜査報告書(但し、租税公課についてのもの)

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書、除却損失調査書、譲渡損失調査書、申告譲渡所得調査書、譲渡損失との損益通算額調査書及び損益通算した分離短期譲渡所得調査書

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成七年押第六二八号の3)及び収支内訳書一袋(同押号の4)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の雑費調査書(二通)、不動産賃貸収入調査書、減価償却費調査書(但し、不動産所得についてのもの)、租税公課調査書(但し、不動産所得についてのもの)、損害保険料調査書及び修繕費調査書

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成七年押第六二八号の5)及び収支内訳書一袋(同押号の6)

(法令の適用)

(注・本欄において、「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものをいう。)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当する(但し、判示第一の罰金刑の寡額については刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)ところ、各罪につき、所定の懲役刑と罰金刑を併科するとともに情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、貸金業を営んでいた被告人が、三年度にわたり合計九九〇〇万円余の所得税を免れた事案であるが、ほ脱税額は決して少なくなく、ほ脱率も通算約八九・七パーセントと相当高率である上、その主たる手口は、顧客基本台帳への記載を行わないなどの方法により、受取利息や受取手数料を除外した上、多数の仮名・借名口座に預金して隠匿するなどしており、計画的かつ悪質なものであり、脱税の動機についてみても、被告人は将来不動産業を開始するため資金の蓄積が必要であったなどとも述べているが、そのような事情があったにせよ違法な手段による蓄財が許容される訳ではなく、格別斟酌するに値しないものであって、これらの諸点からすると被告人の刑事責任は重いと言うべきである。しかしながら、他方、被告人はその後修正申告の上本件に関する本税、重加算税等を完納していること、当公判廷において本件各犯行を認める供述をするなどその非を深く反省していること、被告人には古い罰金前科が三犯あるほか、昭和五三年に出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反罪により懲役六月(三年間執行猶予)及び罰金二〇万円に処せられたことがあるものの、以後の処罰歴は全くないことなどの諸事情も認められ、その他被告人の家庭環境等本件全証拠から推認される被告人のために酌むべき一切の情状を考慮して、懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 平木正洋)

別紙1(1)

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1(2)

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1(3)

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2(1)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2(2)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2(3)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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